東京高等裁判所 昭和26年(う)2108号 判決
一件記録によると、本件はまず昭和二十五年三月二十二日に貿易等臨時措置令違反外国為替及び外国貿易管理法違反として静岡地方裁判所下田支部に公訴を提起されたものであるところ、次いで同年四月十七日にこれと同一の事件が関税法違反として同地方裁判所沼津支部に起訴されたので、右沼津支部は同月十八日に決定をもつて右両事件を併合した上審理をしていたが、昭和二十六年三月一日に至つて前記関税法違反の公訴は公訴の提起のあつた事件につきさらに同一裁判所に提起されたものであるとしてこれを棄却するとの判決を言い渡すと共に、検察官が前記貿易等臨時措置令外国為替及び外国貿易管理法違反の訴因罰条に関税法違反の訴因罰条を追加するのをまつて同月二十二日に原判決の言渡をしたことが認められる。そこで、論旨は、本件は刑事訴訟法第十一条の規定によれば最初に公訴を受けた静岡地方裁判所下田支部がこれを審判すべきであつたのであつて、同裁判所沼津支部がこれを審判したのは不法に管轄を認めたものであると主張するのである。しかしながら、さきに述べた本件訴訟の経過からすれば、本件は所論のように刑事訴訟法第十一条に該当する場合ではない。それは同一事件がまず静岡地方裁判所下田支部に起訴され、次いで同裁判所の沼津支部に起訴されたという関係にあるのである。
そして、地方裁判所の支部とは、地方裁判所の事務の一部を取り扱うためその地方裁判所の管轄区域内に設けられるもので(裁判所法第三十一条第一項)、当該地方裁判所の一部であるに過ぎず、地方裁判所のいわゆる本庁と各支部とはそれぞれ別個独立の裁判所なのではなくて、管轄に関する刑事訴訟法の規定の適用上はそれは同一の裁判所なのであり、そのそれぞれがいかなる事件を処理するかは管轄の問題ではなく裁判事務の分配の問題にほかならないのである。
従つて本件は、最初下田支部においてこれを受理したのであるけれども、それは要するに静岡地方裁判所に起訴されたものなのであるから、後にこれを同地方裁判所の沼津支部が審判しても、あたかも地方裁判所本庁の一の部が最初に受理した事件を後に他の部で審判する場合と同様、なんら管轄に関する規定に違背したものというべきではない(もつとも、前記のごとく沼津支部が昭和二十五年四月十八日に事件を併合した際の決定の理由には刑事訴訟法第八条第一項による旨が明記されていて、これは原裁判所が論旨と同一の法律上の誤を冐していることを示すものであるが、右のごとく事件を併合すること自体は当然許されるのであるから、この誤はもとより原判決に影響を及ぼしたものとはいえない。)しからば、原裁判所は不法に管轄を認めて審判したものではないというべきであるから、論旨は理由がない。